お馬鹿さん

黄緑の小さな蕾たちが顔を出し始めたばかりの
紫陽花に埋もれるようにして
お前は私を見つめている
一人で出て行く私を恨むように 羨むように
何も言わずただ見つめている
私はそんなお前を一瞥し
門を閉め歩き出す

私はお前のことは何でも知っている
魚が好きなことも猫が苦手なこともシャワーの音が怖いことも
決して頭がよくないこともちゃんと知っている

余所見をしてつまずく 溝にはまる
文字通り何度も道草を食っては吐き出す
待てと言って待てるのは目の前にエサがある時だけ
警察犬のように匂いを嗅ぎ分けることなど到底出来やしない
それでも私の顔は覚えている
それさえ覚えていられるのならいい
匂いなど嗅ぎ分けられなくともいい

私の姿が見えなくなった途端騒ぎ出す
まだ朝早いのに近所迷惑な奴
そんなに騒がなくたって
帰ってきたら遊んであげるよ、お馬鹿さん

(2007.05.04)

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